2025年7月、北海道福島町で発生した新聞配達員の男性がヒグマに襲われ死亡するという痛ましい事件は、私たちに野生動物、とりわけヒグマの脅威が決して対岸の火事ではないことを改めて突きつけられたと感じました。
今年に入り、全国で相次ぐ熊の出没と人身被害。
これほどまでに熊は私たちの生活圏に近づいてきているのでしょうか。
そして、その圧倒的な力の前に、私たちは何を知り、どう備えるべきなのでしょうか。
本記事では、2025年に発生した事件を振り返るとともに、過去の悲劇を記録したノンフィクション漫画、そして熊の生態をリアルに描いた作品を紹介します。
これらの記録から学び、未来の悲劇を防ぐための一助となることを願ってやみません。
2025年1月~7月 国内のクマ出没・被害状況
今年これまでに確認されている主な事件を時系列で振り返ります。
北海道のヒグマだけでなく、本州のツキノワグマによる被害も各地で報告されており、日本全体の問題であることがわかります。
- 1月23日(島根県浜田市)
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スーパーセンター南側の山際で、成獣のツキノワグマ1頭が目撃される。
- 2月1日~2日(山形県新庄市)
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市街地の公園にツキノワグマが出没し、捕獲・放獣される。
- 4月9日(長野県飯山市)
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ツキノワグマが住民3名を襲い、重軽傷を負わせる。クマは空き家に立てこもった。
- 5月2日~6日(秋田県鹿角市)
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神社の床下にツキノワグマが4日間にわたり居座り、捕獲される。
- 7月上旬(岩手県北上市)
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高齢女性がクマに襲われ死亡。
- 7月12日(北海道福島町)
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住宅街で新聞配達中の男性(52)がヒグマに襲われ死亡。北海道は初の「ヒグマ警報」を発令。
- 7月13日(北海道福島町)
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前日の死亡事故現場付近で、再び大型のヒグマが目撃される。
これらの事件は氷山の一角であり、目撃情報は全国で無数に報告されているそうです。
特に、安全とされた住宅街にまで出没が及んでいる点は、深刻に受け止める必要があると思います。
想像を絶する「ヒグマ」という恐怖
ツキノワグマも十分に危険な動物ですが、北海道に生息するヒグマは、その体格、力、そして時に見せる執着心において、私たちの想像を絶する存在だそうです。
大きいオスでは体重400kgを超え、立ち上がれば3mに達することも!
その前足の一撃は、人間の頭蓋骨を容易に粉砕するほどの威力を持っているそうです。
時速50km以上で走り、木登りや泳ぎも得意なため、一度狙われたら人間が逃げ切ることはほぼ不可能ですね・・・😰
彼らは本来、臆病な性質を持つとされますが、一度人間を「食料」と認識したり、自分の縄張りを脅かす存在だと判断したりすると、驚くほどの執着心を見せることがあります。
この恐怖の本質を知ることが、身を守るための第一歩です。
風化させてはならない記録
惨劇を伝えるノンフィクション漫画
『羆風(くまかぜ)』 – 日本史上最悪の獣害事件
題材: 三毛別羆事件(1915年、北海道)
作者: 矢口 高雄 / 原作: 吉村 昭『羆嵐』
日本史上最悪の獣害事件として知られる「三毛別羆事件」。
開拓期の北海道の村が、一頭の巨大なヒグマによってわずか数日の間に壊滅的な被害を受けたこの惨劇を、漫画『釣りキチ三平』の作者でもある矢口高雄氏が描きました。
自然への畏怖、ヒグマの圧倒的な暴力、そして極限状況に置かれた人間の姿が生々しく描かれており、読む者に強烈な衝撃を与えます。
これは単なる物語ではなく、実際に起きた悲劇の記録であり、私たちが決して風化させてはならない歴史です。
『慟哭の谷』 – 夏山を襲った悲劇
題材: 福岡大学ワンダーフォーゲル部ヒグマ事件(1970年、北海道)
作者: 大谷 顕 / 原作: 木村 盛武
夏の日高山脈で、登山を楽しんでいた大学生たちがヒグマに襲われ、3名が命を落とした事件。
この作品は、楽しいはずの登山が一転して凄惨なサバイバルへと変わっていく様を克明に描いています。
なぜ彼らは襲われなければならなかったのか。
冷静な筆致で事件の経緯を追うことで、自然の中での人間の無力さと、ほんの少しの判断ミスが命取りになる現実を突きつけます
リアルな描写から学ぶ現代の脅威 – 『シャトゥーン〜ヒグマの森〜』
フィクションでありながら、その徹底的なリサーチによって、熊の本当の恐ろしさを現代に伝える作品です。
原作: 増田 俊也 / 作画: 奥谷 通教
「シャトゥーン(冬眠に失敗し、飢えて山をさまよう危険な熊)」と遭遇した人々の絶望的な戦いを描くパニック・ホラー。
この作品は創作ですが、その根底にあるのは、ヒグマの生態や習性、知性に関する膨大なリサーチです。
「ヒグマは背中を見せて逃げるものを執拗に追いかける」「一度獲物と定めたものへの異常な執着心」「人間を学習し、罠を回避することさえある知性」。
作中で描かれるこれらの描写は、専門家も舌を巻くほどリアルであり、私たちが持つ「クマさん🐻」のイメージを根底から覆します。
フィクションという枠を超え、ヒグマの脅威を学ぶための最高のテキストの一つと言える作品です。

正しく知り、正しく恐れるために
2025年、私たちは再び、野生動物との距離の取り方を問われていると感じます。
彼らの生息域を脅かしているのは人間側であるという側面も忘れてはならないと思います。
しかし、現実に私たちの生活圏に危険が迫っている以上、まずは自らの身を守るための知識と備えが必要です。
ゴミの管理を徹底し、山や自然の近くへ行く際は音の出るものを携帯するなどの対策はもちろんのこと、今回紹介したような作品を通じて「熊の本当の姿」を知ることも、有効な自己防衛の一つです。
これらの記録と物語が、その一助となることを切に願います。